Cucina Italiana

クチーナ・イタリアーナ(イタリアの台所)
第16号

「中島洋子の部屋:ジェラートの発明家
ベルナルド・ブォンタレンティ」

はじめに



奥中央のクリーム色のジェラートがブォンタレンティのジェラート

 フードコーディネータの中島洋子さんが、フィレンツェで16世紀に活躍したジェラートの発明家とされるベルナルド・ブォンタレンティとフィレンツェ市内で美味しいブォンタレンティのジェラートを食べることができるお店を1軒ご紹介します。
 
 イタリアを旅行中にジェラート屋に入ってみれば、ショーケースの中に色とりどりの様々な味のジェラートがずらりと並んでいて、しばしの間どれにしようかと迷うことでしょう。緑色のジェラートは抹茶のジェラートにそっくりな色をしていますが、大概はピスタチオのジェラートです。こってりとした濃厚なチョコレートのジェラートも、爽やかな風味のフルーツベースのジェラートも美味しいので、イタリアを旅する機会があればぜひジェラート屋に立ち寄ってみてください。
 
 お店に入ったら、まずはカップかコーンか決めてからどのジェラートにするか選びます。お店によって若干違いはありますが、たいてい極小サイズから特大サイズまであり、サイズが大きくなるにつれて値段も上がっていきます。どうせなら同じ値段を払って1種類だけでなく、2種類または3種類の異なるジェラートを味見してみたくはありませんか。
 それでは、イタリアでジェラート屋に入った時のとっておきの買い方を伝授いたします。イタリアのジェラート屋では、英語の「and」またはイタリア語で会話してみたい方は「e (エと発音)」を活用して注文してみてください。まず、ショーウインドーを見渡して食べてみたいジェラートを心の中で2種類くらい選んでおきます。自分の番が来たら、何ユーロのカップかまたはコーンかを店員に告げ、例えば「チョコレート アンド ストロベリー」というように間をおかずに注文します。すると、半々ずづ違う種類のジェラートを盛り付けて差し出してくれます。ジェラート屋は店の回転が速いので、「チョコレート」と1種類目を店員に言ってから間が空きすぎたり、「アンド」が間に合わないと、チョコレートのジェラートだけを山盛りにしてあっという間に差し出されてしまいます。何種類か食べてみたいジェラートがある時は、1種類目を言った後にすかさず「アンド」または「エ」と付け加えておくのが秘訣です。


 今回は、イタリアの手作りのジェラート屋に入って今日私達が食べることのできるような生クリームを主原料としたレシピとジェラート製造機の発明に貢献した人物についてお話したいと思います。
 時をさかのぼること、16世紀のフィレンツェはメディチ家の君主コジモ1世の統治下にありました。メディチ家のお抱え建築家、彫刻家、画家、軍事エンジニア、演劇デザイナーであったフィレンツェ生まれのベルナルド・ティマンテ・ブォナコルシ(Bernardo Timante Buonacorsi、1531年‐1608年)は、その多彩な才能ゆえに、ベルナルド・ブォンタレンティ(Bernardo Buontalenti)と呼ばれるようになりました。 ブォンタレンティのブォンは良いとかすばらしいという意味、そしてタレンティというのは才能の複数形です。
 
 ルネサンスの天才といえばレオナルド・ダ・ヴィンチが筆頭に挙げられますが、フィレンツェで16世紀に活躍したベルナルド・ブォンタレンティも後世に残る数多くの発明と功績を残しました。
 例えば、フィレンツェのウフィッツィ美術館内にある八角形の小部屋トリブーナ(特別展示室)は、真珠貝を散りばめた天蓋が宝石箱のように美しく、空気、水、火、土の四元素をモチーフにしてブォンタレンティが設計したものです。類まれな発想力は、同じくフィレンツェのボーボリ庭園にある洞窟を模倣した見事なブォンタレンティの洞窟にも見て取ることができます。
 奇想天外な発想を形にする才能に恵まれたブォンタレンティの功績の一つにジェラート製造機の発明があります。 木製の桶に氷と塩を入れて氷点下にし、ジェラートの材料を入れた熱伝導率の良い銅の容器をその中に入れて、手動式で攪拌するジェラート製造機を作ったと伝えられています。氷に塩を混ぜるとマイナス20度くらいにまで急激に下がることは科学の実験でも証明されていますから、現代のような電気を使う冷凍庫やジェラートマシーンがない時代にも、アイデアさえあればジェラート作りも可能だったということなのでしょう。
 
 ブォンタレンティは、メディチ家の晩餐会の際には大がかりな演出をも含めた宴会係を任されていました。フィレンツェの伝統的なお菓子のズコットも、美食家であったブォンタレンティがメディチ家のある日の晩餐会の為に創作したレシピだと言われています。紀元前から氷や雪と果汁を混ぜたシャーベットに近いものは存在していましたが、ブォンタレンティが発明した卵やクリームを材料に用いたジェラートは、より現在のジェラートに近い斬新的なレシピだったのです。
 歴史的記述によれば、1600年にマリア・デ・メディチ(Maria de’Medici)とフランス王アンリ4世(Henri IV)の婚礼の際に国内外の主賓客にブォンタレンティ考案のクリーム系のジェラートを出したとされています。その頃、ブォンタレンティは60代後半になっていましたが、ブォンタレンティ考案のジェラートの歴史をひも解いてみると、それよりも前の20代後半に既にオリジナルのジェラートを宴会で出したという記述も見当たります。時は1595年のこと、ブォンタレンティ設計によるフィレンツェのべルヴェデーレ要塞完成の祝賀会で、卵黄、蜂蜜、牛乳、ベルガモットやレモンやオレンジの皮で風味づけしたワインを使ったジェラートのレシピをブォンタレンティが考案して宴会の席で出したそうです。
 
 1979年になるとブォンタレンティのジェラートコンテストが開かれ、生クリームを主原料としたフィレンツェのジェラート屋Badianiが優勝しました。配合は各店で異なるものの、砂糖、牛乳、卵、クリームのシンプルな食材で作られた『ブォンタレンティ(Gelato Buontalenti)』または『クレーマ・フィオレンティーナ(Crema Fiorentina)』という名前の美味しいジェラートを今日でもイタリアのジェラート屋で食べることができます。
 
 ブォンタレンティ紹介の締めくくりとして、美味しいブォンタレンティのジェラートを手作りしているフィレンツェ市内のジェラート屋を1軒ご紹介します。

 

ジェラート屋ANTICA GELATERIA FIORENTINA


 お店の名前は、アンティカ・ジェラテリア・フィオレンティーナ(ANTICA GELATERIA FIORENTINA)です。フィレンツェ中央駅から近く、中央市場からも徒歩1分と地の利の良い場所に店を構えています。


フランチェスコ・シーニ氏

 自ら売り場に立ち、手作りのジェラートを作っているオーナーのフランチェスコ・シーニ(Francesco Sini)氏。この場所でジェラート屋を始めたのは1998年のことです。
 
 2010年からフィレンツェで始まった記念すべき第1回ジェラート・フェスティバルとその翌年に出店したそうです。私は第1回目のジェラート・フェスティバルで、数ある出店の中からたまたまこのジェラート屋でブォンタレンティのジェラートを食べて以来、粘り気を感じる程よく練られていて、濃厚でありながらも食べた後に重さが残らないアンティカ・ジェラテリア・フィオレンティーナ(ANTICA GELATERIA FIORENTINA)のジェラートのファンです。


 店内に入ると目に付くのがジェラートの看板です。イタリア語で書かれたブォンタレンティの説明書きによれば、ブォンタレンティ、典型的なフィレンツェのクリーム。1600年10月5日の晩、マリア・デ・メディチとフランス国王アンリ4世の婚姻の際にフィレンツェのベッキオ宮殿の五百人広間で招待客の為にベルナルド・ブォンタレンティがクリームを混ぜたシャーベットを実現した、とあります。
 看板にはブォンタレンティのジェラートの他にも、抹茶のジェラート、リコッタチーズにサフランとオレンジピールとレモンピールを混ぜたジェラートや、ヨーグルトにシナモンと蜂蜜を混ぜたジェラートの説明書きも記されていました。


店内の看板。ブォンタレンティの他、抹茶のジェラートもあります。
 

ショーケースの上に展示されたカップ。1.5ユーロ〜6ユーロまであります。
値段と実物サイズが目で見てすぐにわかるディスプレーです。

コーン型も1.5ユーロ〜6ユーロまであります。
 


パストリッザトーレと呼ばれるパストリゼーション(低温殺菌)のための器具

 フランチェスコ・シーニ氏に特別に厨房の中を案内していただきました。
 小さめの厨房は整理整頓されていてとても機能的。この厨房で美味しい手作りのジェラートが作られています。まず説明してくれたのがパストリゼーション(低温殺菌)をするための器具です。この中に、牛乳、生クリーム、砂糖を入れて攪拌し、85度で殺菌したものが乳製品を原材料としたジェラートのベースになるそうです。 この器具は25000ユーロもしたそうで、日本円に換算すると約300万円ちょっと。調理器具としてはかなり高価な投資です。


抹茶

 その次の段階で、パストリッザトーレの器具の下から出てきた低温殺菌後の液体状のベースに、例えば抹茶のジェラートならば粉末状の抹茶を加えて混ぜます。そして、隣に置かれたマンティカトーレと呼ばれるジェラートマシーンに入れて練り上げます。


低温殺菌後の液体のベースに抹茶を加えて攪拌します。

マンテカトーレ(Mantecatore)

 マンテカトーレと呼ばれるジェラートマシーンで練り上げます。
 フランチェスコ・シーニ氏によると、「当店で作るブォンタレンティのジェラートは、卵、砂糖、牛乳、生クリームだけでできています。マスカルポーネの味がするけれどもマスカルポーネは入っていません。現代は軽めの味が好まれる傾向にあるので、材料の配合も工夫しています。」とのこと。


ブォナ・ペティートと言って渡された1.5ユーロのブォンタレンティのジェラート

<ANTICA GELATERIA FIORENTINAのDATA>
 住所:Via Faenza 2a, Firenze
 TEL:39 3208485018
 Mail:info@gelateriafiorentina.com
 
トスカーナの食の体験ツアーは
http://www.ivc-net.co.jp/food/shokuji/tour.html

中島さんのフィレンツェで1日だけ料理教室
http://www.ivc-net.co.jp/food/shokuji/tour.html

 

次回予告


 次回はジェラートの発明家ベルナルド・ブォンタレンティにちなんだフィレンツェのジェラート・フェスティバルの模様をフィレンツェのフードコーディネータの中島洋子さんが報告します。
 
協力者の紹介と1号から10号の刊行内容
http://www.ivc-net.co.jp/food/mailmaga/2016/publish.html
 
11号から30号の刊行予定
http://www.ivc-net.co.jp/food/mailmaga/2016/publish2.html
 
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