Cucina Italiana
クチーナ・イタリアーナ(イタリアの台所)
第55号
ローマ伝統料理の店ペコリーノ
はじめに
地下鉄ピィラミッド駅とトラステベレ駅の間のMattatoi(屠殺場)にある「ペコリーノ(羊の肉)」の扉を開けると、日本の定食屋のおばさんのようなイタリア人の人なつこい笑顔に迎えられて、ヨソモノの不安が吹き飛んでしまいます。
イタリア料理には貴族の食べる高級なものと庶民の食べる料理の系譜があります。高級なものはイタリアの王女がフランス・ブルボン家に嫁ぐ際にフランスに伝えられ、フランス料理の源流の一つとなりました。その一方で、肉等を満足に食べることの出来なかった食いしん坊の庶民は、お腹の一杯になるパスタ料理を考案した事は有名な話です。ローマの伝統的家庭料理の臓物料理も、庶民の料理、マンマの味、貴族が見向きもしない残り物の臓物やしっぽ、はては頭を美味しくいただくものです。
イタリアでレストランへの最高の賞賛は「家で食べるようにおいしい」です。「ペコリーノ」の料理はまさにその言葉を実行しているわけです。
協力者の紹介と刊行スケジュール
→http://www.ivc-net.co.jp/food/mailmaga/2016/publish.html
Mattatoi(屠殺場)の由来
ピィラミッド駅とトラステベレ駅の間のこの場所は、ローマに食肉を供給する屠殺場がありました。東京築地の周りにいろいろレストランができたように、屠殺場で出る端肉や臓物や尻尾や頭を使って屠殺場に勤務する人たちに食事を提供する店ができてそのうちの一つがこのレストランです。
リソルジメント(イタリアの統一)が達成された1800年代の終わりごろから、ここには労働者向けに食事を提供する店、それこそメニューのイラストにあるように、机と椅子だけの屋台のような店が始まりだったようです。最近は、ローマ伝統料理を提供する店が少なくなっていますが、ペコリーノは「伝統」を守る庶民の店です。
ペコリーノの自慢料理の盛り合せ
お皿の手前左側にあるのがローマの家庭料理「Coda alla vaccinara」。牛テールをセロリとトマトで煮込んだものです。昔々はこれにチョコレートを加えていました。冬に訪れたらぜひ味わってみてください。
お皿のまん中右手にあるのが「Puntarelle」。チコリの一種の芽を割いて、アンチョビーとオリーブオイルと酢で和えたもの。手間がかかるため他ではなかなか食べられません。
お皿の奥にあるのがアンティチョークの料理。左手がアーティチョークを丸ごとオリーブオイルで揚げた物。右手がアーティチョークに詰め物をして、鍋でことこと煮たもの。
Carciofi alla romana(手前) とCarciofi alla giudia(奥)
Carciofi alla romana:アーティチョークに詰め物をして、鍋でことこと煮て作ります。オリーブ油と水を半々くらいにして、パン粉とパセリのみじん切りを中にいれます。アーティチョーク独特のほろ苦さが口の中に広がる逸品。
Carciofi alla giudia:アーティチョークを丸ごとオリーブオイルで揚げた物。カラッと揚がったアーティチョークがパリパリと香ばしく、苦味の中に、野菜独特の甘みがあり絶品。セロリがたっぷりはいります。本家本元のローマ料理では入れないそうですが、ペコリーノでは入れています。
Rigatoni all'amatriciana
筋の入った短いパスタに、パンチェッタ(塩漬け豚肉)の入ったトマトソース、ローマ名産のペコリーノチーズをたっぷりからめた物。トマトソースの甘みと、塩気の強いペコリーノ、パンチェッタのコクのハーモニーが絶品。
Fettuccine alla gricia
前記のRigatoniにソースのトマトが入ってない物に、幅広パスタFettuccineをからめた物。パンチェッタのカリカリとした香ばしさがアクセント。
Coda alla vaccinara
牛の尾を、豚のほほ肉と一緒にトマトソースで煮込んだ料理。骨からホロリと取れるほど柔らかく煮込まれた牛肉は、甘みのあるトマトソースとの相性も抜群。食感の違う豚肉も牛テールのコクが溶け込んだソースによく合い美味。
Torta di ricotta
リコッタチーズとチョコレートのタルト。温めて出てきます。チーズの風味とトロトロになったチョコレート、香ばしいタルト生地のハーモニー。家庭的なトラットリアならではの、やさしい味のデザート。
Pecorino(Pecorino Di Lucarini Alfredo )
Tel.: 06-57250539
場所:Via Galvani 64, Roma Italia
次回予告
アンティチョーク(朝鮮アザミ)はイタリア人が好む野菜(?)です。各地でアンティチョークを使った名物料理があります。トスカーナ地方ではアンティチョークのことをカルチョーフィと呼んでいます。次回はフィレンツェ在住のイタリアン・フードコーディネータの中島洋子さんが、カルチョーフィを使った簡単料理、カルチョーフィのピンツィモニオを紹介します。
協力者の紹介と刊行スケジュール
→http://www.ivc-net.co.jp/food/mailmaga/2016/publish.html
Facebook
→https://www.facebook.com/cucina.italiana.jp/