Cucina Italiana

クチーナ・イタリアーナ(イタリアの台所)
第89号

発展するミラノのスーパーマーケット

はじめに


 温暖な気候のイタリアでは北はア ルプスの麓から、南はアフリカ大陸に近いシチリア島まで変化に富んだ海と山、平野で構成されたおり、地域ごとに独特の農畜産物、魚介類、野禽類、加工食品等、多種多様の食材があります。
 
 この豊富な食材を台所に供給していたのが、街の広場で開催される朝市(メルカート)でした。近隣の農家などが作物を持ち込んだ屋台だけでなく、食材店やデリカテッセンの屋台までならびます。しかし最近では、共稼ぎが増える生活形態の変化や、スーパーマーケットが客のニーズに合わせた商品開発が進んだことから、都市部ではスーパーマーケットがイタリアの台所の重要部分を占めるようになっています。
 
   発展するミラノのスーパーマーケットは→こちらから
 
協力者と刊行内容
http://www.ivc-net.co.jp/cucina/index.html

生活協同組合コープが元気


 イタリアでは古くからある生活協同組合コープ(Coop)が今なお元気です。この元気の源は、美味しいものを求める客のニーズに合わせて、安くて新鮮で豊富な品揃えをするだけでなく、次の商品開発が貢献していると考えられています。
 
 ・ 例えば寿司といったようなデリカテッセンを拡充したこと
 ・ 品質の高い美味しいものを集めること
 ・ 化学合成せず無農薬、GMO フリーといった安全性の高い食材をあつめたこと
 ・ 品質保証の目安であるDOPやIGP商品コーナーを設けたこと
 ・ 品質の高いオリジナルブランドを開発したこと
 
 DOP・IGP食材については→こちらから

 最近コープではミラノ万博に出店した企画店舗をベースに、新形態のスーパーマーケット、「未来型コープ」(Coop Supermercato del futuro)を2016年に開店させました。このお店はロボット化により、省力化を図る実験店です。わずか6人体制で運営されている優れものです。スーパーマーケットでのロボット化の焦点は、ロボットにAI(人工知能)を組み込むことだと言われています。AI利用によりスーパーマーケット業界の将来は大きく変動することが予測されており、「未来型コープ」はその先駆けと言えるでしょう。

 

食品販売に力を入れる総合スーパーのイーペル・アレーゼ店


 ミラノでは、衣食住の総合スーパー・ハイパーマーケットのイーペルがミラノを中心にチェーン店(2016年で27店舗)を展開しています。
 
 このイーペルのアレーゼ店では、ほとんどの売り物を原材料から店内で加工・製造して出来立てを販売しています。例えば、チーズコーナーには、チーズのスペシャリストがおり、水牛と乳牛のミルクで作った朝作りたてのモッツァレッラチーズを販売しています。食べ比べやスペシャリストから話を聞くことも可能となっています。通常の熟成期間をはるかに超えた高価なDOP食材のパルメザンチーズ48ヶ月と60ヶ月熟成のものも置いてあり、食べ比べて購入出来るようになっています。
 
 店内製造を行っている菓子とパンの製造販売コーナーでは、パネットーネに似たベネチアーナという焼き菓子まで置いてあります。またバックスペースには、オレンジ色のヒマラヤの塩のレンガで壁全体が覆われている高級な肉用の保冷庫があります。これはフィレンツェ名物のビフテキで使う高級牛肉キアーナ牛をレストランで保管する保冷庫をイメージさせます。スーパーマーケットでありながら質の高い食材を手軽に買えるというのが、イーペル・アレーゼ店のコンセプトとなっているように思えます。

 

イーペルのイートインコーナー


 イタリアでは日本のような手軽に食べられる大衆食堂がありません。そのため普通昼食は、家に戻って食べるか、バールでパニーニなどを食べるしかありませんでした。手軽に、しかも豊富なメニューのあるイートインコーナーは、ミラノ中心部の会社員に大受けとなっています。
 
 総合スーパーのイーペルが力を入れているのがイートインコーナーです。ここにはグリルコーナーがあり、店内で売っている肉やソーセージ、魚介類をその場でグリルして(グリル代3ユーロ)提供しています。一般的にミラノでの昼食はイタリアの中でも高くつきます。そのためこのイートインコーナーは、ミラノの外食の中でコストパフォーマンスの高いものとなっています。ここでは食事中にワインなどの酒類も楽しむことができます。
 
 さらにピッツァはイートインコーナーで手打ちしており、薪釜(本格ピッツァは通常、薪釜を使う)で焼くといった凝りようです。このようなイートインコーナーは、イータリー、エッセルンガ、コープ等にも設置されており、集客の目玉としてだけでなく、食品を試食する場としても活用されています。

 

苦戦するイータリー


 EU圏内では、食品の品質保証制度の確立が進んでおり、イタリアではこの制度がDOPやIGPという形で良く機能しています。この制度を利用して大量生産の効かない高品質の食品のブランド化が達成されています。このようなことからブランド化した食材の棲み分けが確立しており、スーパーマーケット等で価格競争を仕掛けることができません。他方、DOP・IGPの認定を受けることは高収益につながる反面、認定を受けるための手間(時間と費用)がかかります。ましてやすべて認定されると限りません。この手間を避けて、あえて品質で市場に出される商品があります。高品質でありながら、あえてブランド化していない言わばノーブランドの高級食材があります。
 
 イタリアではブランド化した高級食材を専門的に扱うミラノのペックのような高級食材店があります。一般品はメルカート(朝市)やスーパーマーケットで売られています。このノーブランドの高級食材を販売することにより、高級食材店と一般店の間にビジネスチャンスを狙ったのがイータリーです。具体的にはイータリーの食材の目利きが各地のノーブランドの高級食材を探し出し、オリジナルブランドとして売り出す戦略をとったのです。ところがコープなどの一般スーパーも同様なオリジナルブランド戦略をとっていることから、一般スーパーとの差別化がなかなかできないでいます。さらに根本的な問題と言えるのですが、ブランド化した高級食材を超えるノーブランドの食材などイタリアにはまずお目にかかれないとの現実があります。そのためイータリーは、高級食材店の補助的な役割に止まっており、イタリアではその存在感が今ひとつとなっています。

 

安全な食材への関心が高まるイタリア


 最近イタリアでは安全性の高い食材についての関心が高まっています。具体的には伝統的な高品質食材や化学合成していない食材のニーズが高まっています。この流れの中で無農薬、GMOフリー(遺伝子組み換え食品でないこと)、グルテンフリー(血糖値を上昇させるグルテンを含まない)の商品も増やして、各店とも店の商品をアピールしています。
 
 特に、無農薬、GMOフリー、グルテンフリーの商品やアレルギー体質の人向けのイタリア食材、ベジタリアン用の食材などの高品質で安全な食材を専門に扱うスーパーチェーン店として、ミラノではNaturaSiが展開されています。北イタリアや大都市を中心に、新たなトレンドとしてNaturaSiは人々に受け入れられています。
 
 ミラノでは食品スーパーマーケット、有機食品スーパー、総合スーパー、高級食材店、高級食材スーパーマーケット(イータリー)が激しく競争しているといえます。ここでの集客の目玉となっているイートインコーナーは、吉野家、幸楽苑、銀ダコといったチェーン店の出店が並ぶ日本のフードコートとは異なり、独自のコンセプトで食品を提供する場となっています。ミラノを訪問された際は、このようなイートインコーナーで食べ歩きされては如何でしょうか。特に手軽なレストランのないミラノでは、お勧めです。
 
 発展するミラノのスーパーマーケットは→こちらから
 
 イタリアの台所→http://www.ivc-net.co.jp/cucina/index.html

 

次回予告


 先日、シチリアのアグリジェントの神殿群にお客様をご案内した際に、五つ星ホテルのレストランで、ライトアップされた神殿を見渡すことのできるテーブルで食事をしました。この時のお料理を紹介します。
 
協力者と刊行内容
http://www.ivc-net.co.jp/cucina/index.html

 

発行


ITALIAN VIDEO COLLECTION NET
 
株式会社イタリアンビデオコレクション
情報の投稿・ご意見・お問合せは
info@ivc-net.co.jp
イタリアでのビジネスや旅行は
http://www.ivc-net.co.jp/