ローマから吹く風




アレッツォ・堀文子さん

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 フィレンツェからイタリアの中央部、山脈の方へ向かって80キロほどのアレッツォ市の郊外にイタリア版民宿・アグリツーリズモ・アルベルゴッティがあります。ここはもともとはトスカーナの貴族・アルベルゴッティ家の田園の家だったところです。かつては貴族は町中と田園部に家を持つが普通でした。
 この家の三階に日本画家の堀文子さんが何年かお一人でアトリエを構えていました。アレッツォにアトリエを構えられたのが1987年で、当時既に70歳近くになっていたことだけでも驚きですが、その時点では全くイタリア語を解することなかったとのことで、堀さんのモチベーションの高さには敬服してしまいます。
 このアトリエで生み出された作品は画文集「トスカーナの花野」「トスカーナのスケッチ帳」としてまとめられており、堀さんの後期の作品として人気の高いものとなっています。

<堀文子さんのメッセージ>
 2019年2月に逝去された堀さんのインタビューを聞くと堀さんのメッセージが伝わってきます。
 
 群れない、慣れない、頼らないをモットーに、正直に一心不乱に生きる。折角生きているのだからしたいことをして生きる。やりたいことは諦めない、チャンスは必ずやってくる。本気で自分と向き合う。人間、孤独になると本来の感覚が戻ってくる。
 
 心で花を見る



 
<堀文子さんゆかりのアグリツーリズモ>
 
 堀さんと同じ日本人である、ということだけを武器に、このアグリツーリズモに突然訪ねて見ました。
 
 ここに泊まっても良かったのですが、最低三泊が原則で、予定と合わずに断念しました。

 

 オーナーのアルベルゴッティさんが親切にもてなしてくれました。そう、彼はこの屋敷を建てた貴族の末裔なんです。堀さんの画集を見せてくれました。堀さんは、滞在中、毎朝庭や田舎道を散歩して、興味を惹かれる植物を拾ってきてはスケッチしてたそうです。下の写真はつる草のスケッチ。
<アルベルゴッティ家の家紋>
 アレッツォの街で、最も格の高いカテドラルの中でこの家紋を見ることができます。なんとアルベルゴッティ家は大司教を出す家柄だったのです。日本人の感覚では、僧侶=貴族=貴族の郊外の邸宅は違和感がありますが、イタリアの歴史を紐解くと、貴族が高位の聖職者となるのは、むしろ自然なことでした。



<母屋の広いサロン>

 

<母屋の前の庭と外に向かう道>この庭でもよく画材を見つけていたようです。

 



<離れと離れをつなぐ道>

 


 
<離れの内部>
 
 離れの入り口にあるかまど。今はもう使われてはいないようです。
 
 離れにあるアパートが空いている、と言って見せてくれました。離れには、庭やぶどう畑の世話をする使用人が住んでいました。
 
 働いていた女中さんとよくおしゃべり(?)をしていたそうです。
 
 アルベルゴッティ家で働いている人たちとの交流だけでなく、猫や犬と過ごした日々がトスカーナの画文集に描かれています。今も離れのサロンにある堀さんの絵。



<離れの清潔な寝室>
 質素で清潔な寝室。農具や松ぼっくりなどを利用した飾り物があります。
 
 この屋敷には暖房の設備がありません。冬、堀さんは猫と二人きりでストーブと暖炉だけで、静かな静かな時を過ごしてスケッチを貯めていったそうです。
 
 周りには畑があるだけ。冬には農作業も休みです。誰も居ないところで自分と向き合うには格好の場所ですね。
 
 ご当主によると、堀さんが使っていたアパートを堀さんの展示室にするつもりとのこと。そうなったら、ぜひもう一度訪れたいと思います。