ミラノ万博みてある記

 2015年5月1日から10月31日までミラノで開催されている世界各国の食をテーマにしたEXPO2015。今回は、フィレンツェで料理教室を主宰しているフードコーディネータの中島洋子さんが、7月中旬に訪れたEXPO2015のパビリオン巡りの様子をお届けします。

 地下鉄の駅を出てからまず最初に辿り着くのがチケット売り場です。窓口に並んで当日券を買うこともできますが、事前に日にちを指定してネットで購入しておけば入場もスムーズです。係員が地図を配っているのでもらいましょう。どの国のパビリオンを優先的に見学したいか、どの国のパビリオンで何を食べてみたいかなど地図を見てながら予め検討をつけておくと時間のロスも防げます。

テーマ館「パビリオンゼロ」

 入り口付近にある パビリオン ゼロでは、人類と食料との関わりと発展、食料危機、 近代化に向かうにつれて複雑化する都市部の公害やゴミ処理問題などをジオラマや模型、映像で分かりやすく展示してあり、始めにここを見学しておくとEXPO2015の総括的なテーマ「地球に食料を、生命にエネルギーを」が手に取るようにわかります。
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water kiosk

 広大な敷地内は、古代ローマ時代の都市を模倣した南北を走るCARDOと東西を走るDECUMANOのメイン通りが十字にクロスし、大通りに沿って各国のパビリオンが立ち並ぶ構造になっています。敷地内の周囲を無料のバスが巡回しているので、お目当てのパビリオン付近のバス停まで楽に移動するのも手です。それでも相当な距離を歩くので歩きやすい靴は必需品です。

 そしてペットボトルの水も持参すると後々役立ちます。敷地内の所々にwater kiosk(ウォーター キオスク)と名付けられた無料の無人給水所が設置されていて、ガス入りまたはガスなしの水を必要に応じて空のペットボトルに詰めて飲むことができるからです。

 大通りには果物、チーズ、肉、魚など食材の模型で装飾された展示物が置かれていました。

ベルギー館、ベトナム館

 初めに入ったベルギー館では、ソーラーパネルの天井や屋内での水耕栽培用の装置が印象的でした。館内ではチョコレートのテンパリングの作業を見ることができ、売店ではゴディヴァなど有名どころのチョコレートを買うこともできます。屋外では焼きたてのベルギーワッフルが売られていました。ここには帰り際に再度立ち寄ってベルギービールで喉を潤しました。
 竹のオブジェとカラフルな民族衣装の人形に惹かれて入ったベトナム館で腹ごしらえをしました。甘辛いチリソースでいただく揚げたての春巻をテイクアウトして、パビリオンの裏手の水辺に腰掛けてサクサクとした皮の春巻を頬張り、ほっと一息。
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米のテーマ館、英国館

 次に入ったのはbasimati という種類の米をテーマにしたパビリオンです。館内前には青々とした稲が植えられていて、上部に設置された大きな鏡に映し出された緑が広々とした空間を演出しています。 館内では一人づつ、香りよく特徴的なbasimatiのお米の香りを嗅がせてくれます。館内奥のテーブル席で、ミント風味のヨーグルトソースが添えられたサモサ、ナン、スパイスの効いたチャイ、ヨーグルト風味が爽やかなラッシーを注文していただきました。
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 各国とも趣向を凝らした外観ですが、中でも一際目を引くのが英国館です。蜂の巣をモチーフにした幾何学模様の30トンもの鉄筋造りの大きなオブジェには千個のLEDランプが取り付けられていて、千匹の蜂の動きと連動して点滅する仕掛けになっているそうです。

 ハチミツを作ってくれる蜂が英国館のテーマで、蜂の目線が体感できる高さに植えられたガーデニングの発想が見事です。春夏秋と季節によって移り変わるイギリスに咲く野生の草花が植えられたエントランスを進んでいきます。春はシロツメクサやタンポポ、夏はデイジーやラベンダー、秋には赤いポピーや青いコーンフラワーが咲くことでしょう。英国館の二階ではフィッシュ&チップスの他にイギリスのお菓子類も食べることができます。

 EXPO2015 のオフィシャルHPに掲載されている各国のサイトに目を通してから見学すると面白さも倍増します。

スペイン館、メキシコ館

 スペイン館では、壁や床に等間隔にディスプレイした白い皿の展示室が印象的でした。次々にスペイン料理などの映像が室内全体に映し出されると、シンプルな白い食器が瞬く間にスクリーン代わりになるのです。併設のレストランでは、パエリア他、様々なスペイン料理を食べることができます。
 メキシコ館では、天井に数えきれない程の木製のスプーンがぶらさがっている空間があり、一つが動き出すとそれが次々に連動して、やがて広範囲に広がっていき、打楽器のようなリズムを産み出す仕掛けが摩訶不思議でした。メキシコ館の見学後に、屋台で豚肉とパイナップルの具にライムを絞っていただくタコスを注文しました。食べ慣れたタコスとはまた違う一風変わった味覚に新たな発見をしました。
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オーストリア館、モロッコ館、カタール館、インドネシア館

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 オーストリア館は、入った途端に山林に迷い込んだかのような造りになっていて、鬱蒼と繁る木々や草が憩いの空間になっています。所々に設置された機械から吹き出される涼風と細かい霧の水しぶきが肌に当たり、歩き疲れた体をリフレッシュしてくれます。館内ではオーストリア名物のザッハトルテやシュトゥルーデルなどを食べることができます。
 その先にあるモロッコ館を見学後、併設の屋外のバールでモロッコのミントティーを注文して飲みました。炎天下の真夏日にもかかわらず、熱く甘いミントティーは気分を爽快にしてくれます。
 カタール館は、大きな篭のオブジェが建物の上に乗っていて、水が流れる涼しげな階段のエントランスや椰子の木が印象的です。館内には、本物そっくりの食品サンプルが展示されたコーナーがあり、螺旋の通路を下る際に中央の柱に投影される海の生物や色鮮やかな模様がとても綺麗でした。
 インドネシア館は、館内見学後に外の屋台でピーナツ風味のタレがかかった焼き鳥のサテーを注文して食べました。

ロシア館、日本館

 ロシア館は、巨大な鏡の屋根のエントランスが印象的で、入り口付近には可愛らしい3匹のクマのオブジェが置かれていました。館内には青い色調の実験室を彷彿させる展示物と周囲を囲む映像のパネル、併設のレストランは電車の食堂車の設えになっていてビーフストロガノフやキャビアなどを食べることができます。
 日本館は大盛況で1時間待ちの長蛇の列。2015年ミラノ国際博覧会の日本館のオフィシャルHPには、日本館の展示内容や主旨が写真や館内の見取図入りで詳しく紹介されていて、ハイテクと伝統がマッチした日本のパビリオンに期待感が増します。栄養バランスに優れた一汁三菜の日本の食の展示は、世界中から訪れた多くの人に感銘を与えたことでしょう。この日は見学予定のパビリオンがその先にいくつもあった為、日本館を後にしました。日本の伝統建築と先端技術を駆使した立体木格子の木製エントランスは、ライトアップされるとよりいっそう風情をかもし出していました。
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アメリカ館、クウェート館、ドイツ館、スイス館、フランス館

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 アメリカ館は、オバマ大統領のスピーチのビデオと屋外の壁を利用した縦型の野菜畑が印象的でした。上階のテラスに出るとパビリオンが一望できます。
 クウェート館は入場制限で待つ間、エントランスの部分が水のカーテンで仕切られていました。シャワーのように上から落ちてくる水に時間差をつけ、水のカーテンが文字を刻む仕掛けには驚きました。
 ドイツ館では、ソーセージやザワークラフトにドイツのビール、その隣のスイス館のレストランでは本場のチーズフォンデュもメニューにあり、世界中のグルメを堪能するのに事欠きません。
 フランス館は、お洒落な雑貨屋に入ったかのようなディスプレイで、カラフルな食器やワインの瓶、鍋やドライハーブなどが天井や壁に吊り下げられていました。お目当ては出口付近のパン屋です。バターの香りのするクロワッサンとマドレーヌを買って食べました。

中国館、タイ館

 中国館は、エントランスへと続く生け垣の黄色い花が満開で、カーブを描いた屋根の建物と相まって絵になります。入館すると、色が刻々と変わる圧倒的な数のランプが配置された大きな空間に目が奪われます。 緩やかなスロープを歩いて登ると、二階の劇場では中国の正月をテーマにした映画が上映されていました。
 タイ館は、万華鏡のような鏡張りの部屋にタイ料理や幾何学模様の映像が映し出され、その空間の中に一人の男性が登場してダンスをし、それを上から観客が眺めるという趣向が斬新的でした。 タイ館の出口付近の売店では、プラスチック容器に入ったレンジで温めるタイカレーなどのインスタント食品が陳列されていました。レジの後ろには幾つもの電子レンジが置かれていて、まるでコンビニエンスストアーのようです。館内を出てから納得しました。出口に掲げられた文字、Food for the Future、すなわち未来の食べ物とは、レンジでチンするだけで直ぐに食べられ、常温保存できるタイ料理のインスタントフード化のことだったのかと。
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韓国館、アラブ首長国連邦館

 韓国館では、2台のロボットがアームに長方形のスクリーンを持ち左右に移動したりスクリーンを回転させながら韓国料理に欠かせない食材のイメージ写真を映し出す装置や、通路の左右に埋め込んだたくさんの瓶に映し出される色鮮やかなモチーフが印象的でした。 韓国館では、唐辛子が効いた鶏の唐揚げを食べました。
 アラブ首長国連邦のパビリオンも日本館同様に長蛇の列でしたが、夕方になって少し列が短くなってから並びました。次回のEXPOはアラブ首長国連邦で2020年に開催予定です。オレンジ色の砂漠の砂模様を彷彿させる蛇行する高い素焼き風の壁が続くエントランスが印象的でした。 館内ではエアコンの効いた座り心地のいい椅子に座り、砂嵐の場面など迫力ある短編映画を鑑賞しました。貴重な水資源、近代化と自然保護のテーマが、一粒のヤシの種と少女のタイムスリップを通して繰り広げられます。入館の待ち時間にカラオケで歌ってくれる観客を集いに係員がやってきますが、これは後にスクリーン上でインタラクティブな構成となり、観客に一体感と感動を呼び起こします。
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 こうして丸一日かけて敷地内のパビリオンを巡り、五感を通して食の探索をし、食に纏わる問題提起にも改めて深く考えさせられ、忘れ難くとても有意義な経験になりました。ミラノのEXPO2015の開催期間は10月末迄。イタリア旅行にいらっしゃる方は、この類い稀な機会をお見逃しなく。
 9月中旬から10月末にかけて、イタリアンフードコーディネーターと廻るEXPO2015のツアーも開催致します。詳しくはイタリアンビデオコレクションにお問い合わせください。