ファビオ・カンナバーロ

カルチョ バリッラというサッカーゲームをご存知だろうか?
イギリスで伝統的なサッカーゲームと言えばスブテオだが、イタリアでまず思い浮かべるのは、このカルチョ バリッラである。イタリアのBAR、特に夏の海水浴場にあるBARには必ずといって良いほどこのゲーム機が備え付けてある。バーを手で回しながら、バーに取り付けてある選手の人形で球を蹴って相手ゴールにシュートするゲーム機である。
何故こんな説明をしたかというと、終了したばかりのWカップドイツ大会でのイタリア優勝の立役者であるキャプテン・ファビオ・カンナバーロの奮闘振りを見ていて、まるで勝利の女神がカルチョ バリッラのバーに取り付けられたカンナバーロ人形を操作してイタリアの危機を救っているかのように思えたからだ。

イタリアゴールを死守したGKのブッフォンの活躍も素晴らしかったが、すでに選手としての峠を過ぎたと思っていたカンナバーロの大活躍には心底驚いてしまった。 今回のイタリア代表チームは大会前に噴出したユベントスの役員だったルチアーノ・モッジを首謀者とする大スキャンダルの所為で、ひょっとしてグループリーグ突破も難しいのでは、という意見が多かった。 間接的にだが、リッピ監督やカンナバーロもこのスキャンダルに関係していたし、GKのブッフォンやイアクインタのように、選手が遊ぶ事を禁止されている賭博に関わった疑いが持たれている選手もいた。スキャンダルが噴出するまでイタリアが優勝候補最右翼と思っていた僕も、こんな疑惑のあるメンバーでは暗く厳しい前途しか待ち受けていないだろうと思っていた。

彼がインテルに在籍している時のことだ。ユーベのモッジはカンナバーロのユーベへの移籍を容易にするために、わざとインテル監督のマンチーニと仲違いをして、その後にユーベへの移籍を承諾してもらえるようにモラッティ会長に直談判するよう入れ知恵をしたのだ。カンナバーロはモッジの指示通りそれを実行し、希望通りユーベへの移籍を果たした。 カンナバーロとの交換トレードでインテルに入団したのは、ユーベの控えGKだったファビアン・カリーニだった。カリーニはウルグアイ代表の正GKだったが、ユーベではブッフォンのサブというより、サブのサブ、つまり3番目のGKでしかなかった。 その時はイタリア代表のディフェンダーとその程度のGKとの交換トレードを承諾したお人良し過ぎるインテル首脳陣に呆れもし、そして腹も立てたのだが、今回のスキャンダルでモッジが仕組んだトリックが明かされると、それに組した形でインテルを去ったカンナバーロが憎くて堪らなくなった。

しかしWカップが始まり、カンナバーロの奮闘振りを目の当たりにしていくにつれ、そのような個人的感情は吹っ飛んでしまった。 初戦からフランスとの決勝戦まで、イタリア代表のキャプテンとして圧倒的な存在感を見せ、チームを優勝に導いた。 FIFAは今大会のMVP(大会最優秀選手)をフランス代表のキャプテン・ジネディーヌ・ジダンに与えたが、真のMVPは間違いなくカンナバーロである。 (了)