「食文化としてのナポリピッツァ」
7.日本でのナポリピッツァ作りの難しさ、8.ナポリピッツァ作りのルール

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7.日本でのナポリピッツァ作りの難しさ
 いまやネットでレシピが手に入る時代なので、ある意味ピッツァ作りは難しいものではありません。特に料理の分かった人が作れば、それなりのピッツァができます。ただナポリピッツァのことが分かってない人が作ると、外国人が握る寿司のようなものになってしまいます。そこには間違いがある場合があります。

 もちろん日本でピッツァ作りをしようとすると、作るための条件がイタリアとは異なっています。例えば生のビール酵母のように、イタリアのスーパーで1ユーロもしないものが、日本ではほぼ手に入りません。食材もトマトソースの決め手となるサンマルツァーノトマトの生のものが日本では手に入りません。類似のものは長野県の農家で栽培にチャレンジされているのですが、品質はイタリアに及びません。これもピッツァの決め手となる水牛のモッツァレッラ・チーズも最近日本で作り始めているのですが少量なので、日本で使う場合は空輸です。サンマルツァーノ同様、フレッシュなものは得られません。

 このように日本における食材や環境等の条件では日本で実現できないものもあるのですが、それ以外にも理解の違いから、イタリアで守られている決まりが守られていないことが、日本でも見かけられます。弊社で経験したことですが、ピッツァ釜で肉を焼くということを自慢されていた料理人の方がいました。肉の脂が釜の天井についてしまうことを理解されていなかったのです。肉を焼くならコンベクションオーブンを使うべきです。節約するためにピッツァ釜で肉を焼くことは、料理人として禁じ手です。さすがに本格的な料理の修行をした方ではありませんでしたが。

 このような極端な話を別にしても、ナポリのカプート社の小麦を使われていても、現地では小麦粉をブレンドしていることを良く認識されていない方もいらっしゃると思います。そうなるとピッツァのアイコンで、ピッツァの基本中の基本となるマルゲリータ・ピッツア作るときに、トマトソース、モッツァレッラ・チーズ、小麦粉に問題があるのですから、かなり致命的と言わざるを得ません。



8.ナポリピッツァ作りのルール
 例えばピッツァ作りでは、イタリアには次のようなルールがあります。
・ その日の気象条件に合わせて、小麦粉をブレンドする
・ 生のビール酵母を使い、その日の発酵状態に合わせて、発酵時間を設定する
・ ピッツァ生地を毎朝作る
・ 生地練りで生地を引張ったり、打ち粉をしたりしない
・ ピッツァを薪釜で焼く際は、煙やヤニを考慮してブナやオークを薪として使う
・ ふちを焼き上げるため等でピッツァをパーラーで窯の上部に持ち上げることはしない
・ 3種類の目的の異なるパーラーを組み合わせて使う
・ ピッツァのトッピングに合わせて、炉内でのピッツァ焼きのローテーション(配置換え)をおこなう
・ 焼き上がったピッツァをパーラーで持ち出し、台の上に滑り降ろす

 これらのルールには、それぞれなぜそうなるかの理由があります。日本のピッツァ職人の方もこの基本ルールはご存知です。でもなぜそうなっているか、全部説明できる方は、そう多くはないと思います。もちろんある時にはルールを守りきれないことがあります。例えば思った以上にお客様がきて朝に作ったピッツァ生地が足りなくなったときです。このような応用編に対応するためには、マニュアルで知るだけでなく、応用しなければなりません。つまり基本を知っているだけでなく、学んでいることが重要なのです。
 
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